コラム連載一覧

<中里清志 ヨーロッパ大陸自転車単独横断をふりかえって>
-「65歳のチャレンジ」出版1年にあたり-

第16回:最終編

 この連載もこれで最終回となります。お付き合いくださって、ありがとうございました。連載を続けながら、ヨーロッパ大陸横断の旅をもう一度振り返ることができ、自分でも当時を楽しく思い出す ことができました。また、旅の当時と現在の状況と比べて、自分の考えや想いを述べる機会を与えていただいたことに感謝いたします。
 あの旅から5年半を経過し、世界の状況は変わりました。移民・難民の受け入れ、テロの発生等の問題などを抱え、ヨーロッパでは外国人が自転車で国境を自由に通過することは 難しくなっていると思います。アメリカでは、トランプ政権がメキシコとの国境に壁をつくり、排外主義的な政策をすすめています。しかし、この旅や自分の今の生活を振り返り、 改めて思うのは、「人に国境はない」という想いです。あのスペインの片田舎で、村人の誰一人とも言葉(英語を話す人がいない)も通じず、宿泊や食事に苦労しましたが、身振り手振りでお互いに 意思疎通ができた経験や、行き先々で道を尋ねた時、親切に答えてくれた多くの現地の人たちなど、多くの人の親切や温かさに触れることのできた旅でした。人種や国や言葉が違っても、 人間同士は分かり合え、仲良く共存できると思います。ヨーロッパは、イギリスの「EU離脱」などの動きを抱えながらも、国境を乗り越えて一つの理想を実現しています。 不安定な国際社会の問題はありますが、多くの人々が国境を超え、自由に行き来できる社会の実現を強く望みます。
 旅では、ギリシャ・ローマの遺跡をはじめ多くの素晴らしい世界遺産、寺院や遺跡を見学しましたし、ピカソやセザンヌの過ごしたアトリエや作品等にも触れることができました。 丁度、遠足・校外学習シーズンということもあって、行く先々で、子どもたちは、教育の一環として小さな時から芸術や文化に直に触れているように思います。全般的に、市民は幼い時から 芸術や文化を身近なものに感じているようです。ヨーロッパの市民社会は、古くからの文化、伝統を大切に守りながら、また、一方では新しい文化を取り入れて生活しているように見えます。 様々な問題抱えていると思いますが、ヨーロッパの市民社会の豊かさは、日本が大いに学ぶ点だと思います。市民社会の豊かさが、芸術や文化を支え育てていきます。市民社会が、疲弊していけば当然、 その文化や伝統はすたれていくでしょう。その点、今の日本は、大きく後退していると思います。
 とりわけ安倍政権が誕生してから、社会の貧富の差は拡大し、4年間でサラリーマン世帯の実質賃金は年間10万円減少しています。加えて年金の削減、保険料の値上がりで可処分所得は 年20万円も減少しています。中間層の所得の低下は、日本の文化、伝統を維持、発展させることを妨げています。一方では、円安や株高で大儲けした大企業のため込み内部留保は 過去最高の400兆円を超えました。大企業・富裕層などと中間層の所得格差は拡大しています。
 2018春闘で、全労連「2018年国民春闘白書」をもとに国公労連が行った試算では、大企業の「内部留保」のわずか3%未満で、正規従業員に月額2万円の賃上げ、非正規雇用の 労働者全員に時給150円の賃上げが可能としています。全労連・国民春闘共闘委員会の提起する月額2万円、時給150円以上の要求は妥当なものです。また、OECD(経済協力開発機構)の 統計によりますと、国別の高齢者の貧困率は、日本は2割に達し、ドイツの2倍、フランス・オランダの5倍にもなっています。文化や伝統は一部の特権階級だけでは維持発展できません。 文化や芸術は、国民全体の共有財産です。ヨーロッパ並みな生活を保障させ、日本の市民生活が日本や世界の文化や芸術を謳歌できるようにしたいものです。
 旅先では、見ず知らずの土地に外国人の自分が身一つで入っていく訳ですから、人に会った時は「あいさつ・声かけ」には気を遣いました。自分から進んで相手より先に笑顔で声をかけること。 異国の地で初対面の知らない人に接する時に、相手に「敵と思われないこと」です。厳しい国際社会の国同士の外交関係も人と人との関係に似ていると思います。外交の基本は「敵を作らない」ことです。 しかし、日本の安倍政権の外交政策はアメリカ一辺倒で、あえて北朝鮮をはじめ多くの敵を作ろうとしているように見えます。安倍政権は、北朝鮮の脅威をあおりながら、憲法9条改定を公言しています。 9条改憲は、各種の世論調査で反対が過半数にもかかわらず、安倍政権は今年中に国会に提案(発議)し、国民投票にかけようとしています。国民は、改憲を望んでいません。
 今回の旅を通して改めて感じましたが、戦争をしない平和憲法を持っていることで、日本人は世界の人々から、尊敬を集めることができ、安心感を持たれてきたのです。9条を変えるならば、 国際社会の中で、日本の立ち位置を失わせることになると思います。今一度、アジア・太平洋戦争の苦い経験を踏まえて平和憲法が制定されたことを振り返る必要があります。
 今年は明治維新後150年に当たります。終戦(1945年)までの前半世紀がどういう時代であったか、日本がすすめてきた戦争がどういうものであったか再検討する機会にしたいと思います。 再び過ちを犯さないために、絶対に9条改憲を許してはなりません。いま取り組んでいる「全国統一3000万署名」の目標達成に向けて、より一層力を入れなければと考えます。
 私は、相変わらず、旅を共にした丈夫な台湾製の愛車「ミスター・ジャイアン」に乗り、毎日のように往復1時間半かけて、住まいの大宮から上尾へ通いながら、社会的な活動に忙しい日々です。 時々、旅を思い出し、日常生活から解放され、風を全身で感じて自転車を走らせる爽快感、国境を越えた多くの人々との触れ合いは、何ものにも代えがたいと感じます。夢をもう一度とも思いますが、 厳しき年金暮しの折、現実はなかなか……。
「65歳のチャレンジ」の出版を機に、公民館の市民講座での報告会の開催や、本を何度も読み返してくださった方々との出会いなどが広がりました。最後になりましたが、こうした人々とのつながりを 後押しし、この連載を呼びかけて下さった埼労連の尾形佳宏さんと埼労連の皆さんに感謝申し上げます。
(なかざと きよし・元AOI<上尾桶川伊奈>労連議長、
                   現・憲法九条を守る上尾共同センター代表)


  緑豊かな世界遺産の街「シントラ」
  のムーア城。万里の長城のような
  石垣が続き、遠くには青い大西洋
  が望めました。
 
  今回の最後の自転車走行の朝。ホテ
  ルの親切なマスターの息子が撮って
  くれました。シントラからリスボン
  をめざします。

  エンリケ航海王子の500回忌を
  記念して造られた「発見のモニュ
  メント」前で。大きさに驚かされ
  ました。
 
  リスボンには、昔のなつかしさを
  感じさせる市電が走っています。
  高層ビルは少なく、落ち着きのあ
  る街でした。

  リスボン市内が見渡せる「サンジ
  ェルジュ城」からは、赤い瓦屋根
  の並ぶ街が美しい。コロンブスも
  ここから航海に出かけていったテ
  ―ジョ川が見渡せる。
 
  中庭の大理石の回廊が見事な世界
  遺産の「ジェロニモス修道院」前
  で。旅の最後の訪問地になりまし
  た。
   

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