コラム連載一覧

<中里清志 ヨーロッパ大陸自転車単独横断をふりかえって>
-「65歳のチャレンジ」出版1年にあたり-

第14回:ポルトガル編(その1)

 旅はスペインからポルトガルへ向かいます。国境が近づいてくるにしたがって、道路沿いにはポルトガルの表示看板がだんだん大きくなってきて、いよいよ最終目的地の国へ入るのだと感じられます。 国境のグアディアナ川には大きな橋がかかっていて、自転車ではとてもポルトガルへの入国は無理なようでした。地元の人に聞き、迂回して船で渡ってポルトガルへ入国。 もちろん、国境の審査は何もありません。ポルトガルの街は、スペインと比較して、まだ開発がそれほど進んでいなくて、通りにはレンガ造りの家並みが続き、昔の良さが残っていました。 自然や緑も多く、野菜も新鮮で食事もおいしく食べられました。地元のレストランの主人もスペインより料理が良いことを自慢していました。
 牛や馬のいる牧場を道路わきに見ながら進むうちに、太陽の光を受け自転車に乗っている自分の影が、道路の前方に映るようになってきたのに気が付きました。 今までずーっと進む自転車の右側に見えていた影が、前に現れるようになったのです。進む方向が、これまで長い間、地中海沿いを西へ西へ向かって走っていたのが、 北の方向の大西洋をめざすようになったと実感しました。大西洋からの風は少々冷たく、汗をかいた体には心地よいものでした。
 古い街道のガタガタの田舎道を過ぎ、地方の住宅地に入った所で突然自転車の前輪が大きな音を立てて破裂してしまいました。今回の旅で2回目のパンクです。大きな音に驚いて住宅地から地元の おじさんが飛び出してきて、パンク修理を手伝ってくれたのには大助かりでした。その後は、応急処置をしてしのいだのですが、いつもう一度破裂するかわからない状態で走行しました。 でも、すぐ近くの田舎町に本格的なサイクルショップがあって、これまたラッキーでした。幸運と人の助けのありがたみを改めて知る機会となりました。
 トロイヤ半島を過ぎ、古い建物が多く残るポルトガル第4の都市セツバルで宿泊し、いよいよリスボンをめざします。ここでも、地元の若者の助言に助けられながら、 アルマタの街からフェリーでテージョ川を渡ってリスボンの港に着きました。リスボンの街は、高い建物が少なく、石畳の坂道を市電が行き来していて、昔の面影が至る所に感じられる街でした。
 今回のヨーロッパ大陸の旅では、ヨーロッパの国々が移民や難民を受け入れるなど困難を抱えながらも、ゆったりと生活している市民社会の姿が目立ちました。ヨーロッパの成熟した社会は さまざまな問題がありながらも、根本的には個人の尊重の上に成り立ち、国家や政府は人々・個人のために存在するという価値観が定着していると感じます。
 今年2017年は日本国憲法施行70年の節目の年で、各地で憲法に関する集会やイベントが行われました。東京・有明防災公園での憲法集会には5万5000人を超える多くの人が集まり、 平和憲法を守ろうの声をあげました。私たちも地域のJR上尾駅前で憲法記念日の宣伝行動を行い、50人が集まりました。私は、その後、「さいたま市西区九条の会」主催の慶応大学の柳沢遊・ 名誉教授との対談に呼ばれ、50人ほどが参加し、改めて日本国憲法について考える機会になりました。
 日本国憲法は、日本がアジア・太平洋戦争の反省から、再び国際紛争を解決する手段として永久に武器を行使しないことを国際社会にも宣言した憲法です。あれから70年、 安倍政権の下で再び戦争への危険が起きてきています。多大な犠牲をはらって終わった終戦の年1945年。その70年ぐらい前の時代は、明治時代の初期に当たり、 日本はアジア諸国の中で先駆けて西欧文化を取り入れ、富国強兵を推し進め、大日本帝国憲法、教育勅語を柱に、国民を動員して戦争が遂行されました。個人の人権を踏みにじり、 教育・市民生活を抑えつけ、軍部により全体主義、国家主義の戦争が進められました。こうした苦い経験から、日本国憲法では、個人の権利、基本的人権の尊重がうたわれ、 誰でも生まれながらにして生きる権利が保障されています。日本国憲法を改めて見直してみると、いかに個人的人権の尊重に関わる条文が多いかに気づかされます。第10条から40条まで、 99条ある条文の約3分の1にあたります。戦争によって踏みにじられてきた基本的人権、個人の尊重が、憲法施行当時いかに大切にされる社会の必要性が強調されたかが分かります。
 いま、日本の安倍政権は、個人の尊重から国家が個人の生活を縛ることへ変えようとしているようです。自民党憲法草案では個人を人と変え、個人の基本的人権尊重の永久の権利条項を削除しています。 さらに、教育現場でも来年度の小学校から実施される道徳の教科化では、一方的な国家的価値観を子どもたちに強制しようとし、戦前の天皇の言葉である「教育勅語」を教材として使用することも 政府は認めています。
 現在、国会で審議中の「共謀罪」では、テロを口実に国民の内心まで監視の対象とし、個人の尊重よりも政府・国家の都合の悪いことを未然に取り締まろうとしているようです。 さらに、安倍首相は、5月3日にオリンピック開催の2020年に新憲法を施行すると表明しました。内容は、憲法9条の1項・2項はそのままに、3項を設けて「自衛隊」を明記するものです。 2項の「戦力の不保持」を死文化させて、海外での際限のない武力行使に道を開くものです。戦争は、平和なうちから準備が進められます。国民・個人の言論の自由を抑制し、 「戦争反対!」と言えない社会を押し進めようとしています。
 先日発表されたパリに本部がある「国境なき記者団」の2017年「世界報道自由ランキング」によると、日本は世界72位でG7の国々の中で最下位です。以前は11位でしたが、 安倍政権になってから下がり続けています。今まさに個人の自由な生き方を保障した日本国憲法が生かされるのか、それとも全体主義・国家主義の改憲の社会になるのかの歴史的な岐路に 立っていると思います。日本の平和と自由は闘わなければ守れない局面にあると思います。
 さらに、「森友学園」「加計学園」問題で、首相自身や首相夫人の口利きが指摘されていながら、真相を究明する態度を見せず、隠蔽を図ろうとすることを許してはいけません。 国会での証人喚問など真相を明らかにすることと責任の所在を求めていく国会内外の運動がいま求められます。改めて、多くの皆さんと地域から声を上げなければと思います。
 旅は、今回の走行の最終目的地ポルトガル・ロカ岬ヘチャレンジすることになります。
(なかざと きよし・元AOI<上尾桶川伊奈>労連議長、
                   現・憲法九条を守る上尾共同センター代表)


  スペインの旅を終えて、ポルトガル
  ヘ。道路の表示もだんだん大きくな
  ってくる。
 
  船で川を渡って、スペインからポ 
  ルトガルへ入ります。国境の検問 
  は一切なし。

  4世紀のローマ時代に造られた石 
  造りの橋に、夕闇が迫ります。  
 
  街道沿いのポルトガルの田舎街  
  の風車小屋が目を引きます。   

  オレンジ色の瓦屋根の家が並ぶ  
  村の景色は、絵になります。   
 
  ポルトガルの田舎の街中は、石畳が
  続き、静かで中世そのままのよう。

  ポルトガルの首都リスボンに向かう
  途中で、若者から励まされ、よい 
  道路のアドバイスをもらいました。
 
  フェリーでいよいよ最終目的地の
  街リスボンの港に向かいます。胸
  も高鳴ります。

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